「ライナルツ!」


 ピッチに選手たちが現れると、観客は自然と立ち上がり、歓声と拍手で迎えた。チャンピオンズリーグアンセムが流れ、いやがおうにもムードが高まる。気になるのは、いくらアウェイとはいえ、バレンシアサポーターの数が異様に少ないことだ。飛行機が遅れて、試合開始に間に合わなかったのだろうか。としたら、早くスタジアムに来られるといいのだが。
 アンセムが終わり、選手たちがピッチに散らばった。前半はバレンシアが私たちの方に攻めてくる形になり、レノがすぐ前のゴールエリアに走ってきた。サポーターから再び「レーノーレーノー」とレノコールが起きる。この試合に勝つには、レノがこれまで同様に守りまくるしかない。そんな思いも感じられた。
 他の選手たちもそれぞれ自分のポジションにつく。バラックはトップ下。本当はもっと下の位 置の方がボールに触れる機会が多く、本領を発揮できると思うのだが。わずか一ヶ月前には「途中出場でもいいから」と願っていたことを思うと、私も贅沢になったものだ。


この日のスターティングメンバー


 キックオフの笛が鳴った。試合は開始直後からバレンシアペース。巧みなボールさばきで相手にボールを渡さない。敵のゴールエリア近くで、シュールレが二回連続でボールを奪いに行くが失敗。その直後、今度はバラックがボールを奪いに行って成功。さすが。だがいざ攻撃!となったとたんに審判の笛。強引に体を入れて奪ったせいで、相手を転がしてしまったのだ。
 数分後、今度はロルフェスがボールを奪おうとして相手を倒し、ファウルを取られる。バレンシアの選手の倒れ方がうまいというのもあるが、レヴァークーゼンも、まともなやり方ではボールを奪えないのだろうか。選手たちの焦りが伝わってくるようだった。
 その後、自軍ゴールエリア内で混戦になるが、トプラクがなんとかクリア。その後も何度もゴール前に迫られるも、レノが死守。レヴァークーゼンの選手は固くなっているのか、ゴール前で中途半端なクリアしかしない。そのこぼれ球をことごとく相手選手に奪われて、また攻められる……というパターンが続く。ゴール裏のサポーターもイライラが募り、しきりに周囲から吐き捨てるような声が聞こえる。何を言っているのかは分からないが、「ライナルツ!」という単語だけは聞き取れた。いいように翻弄されている守備陣だが、とりわけライナルツの出来が酷いと感じるのだろう。

⇒続く