そんなことを思い返しているうちに練習が終わり、選手たちはピッチを去って控え室へ。選手たちがいなくなってテンションが下がったのか、とたんに夜の寒さが身にしみてきた。とりわけ下半身が寒い。上半身はセーターにダウンコートとばっちり防寒しているのだが、下半身はジーンズとブーツだけ。さっきからずっと歯の根がガチガチ鳴って、噛み合わない。暖かい飲み物でもほしいところだが、我慢してすっかり泡の消えたビールをちびちび飲んでいると、場内に勇ましい音楽が鳴り響いた。周囲の視線がいっせいに正面
のオーロラビジョン「BayArena TV」に集中する。スタメン発表だ。
スタジアムDJが選手のファーストネームを叫ぶと、観客がラストネームを叫び返す。「ステファーン!」「キースリンク!」「ミヒャール!」「バラーック!」ドイツならではのスタメン発表に、観客のボルテージも自然と上がっていく。
両チームのスタメン発表が終わると、それを待ちかねていたように、サポーターが大声でレヴァークーゼンの応援を始めた。ほとんど男の声だけで構成される野太いチャントが響き渡り、手拍子が場内に広がっていく。私も立ち上がって手を叩いた。ふと周囲を見ると、人の良さそうな老紳士が両手をポケットにつっこみ、チャントに合わせて全身でリズムを取っていた。その様子がいかにも楽しそうなのだ。声を出したり手拍子をするなどして、積極的に応援に参加はせずとも、自分流に試合観戦を楽しんでいる。サッカー文化が根づいていることを感じさせられるのは、こんな何気ないワンシーンなのだ。
チャントが終わると、今度はスピーカーから流れる応援ソング「Leverkusen」に合わせて大合唱が始まった。私も歌詞の意味は分からなくても、聞き取れる部分だけ口まねで歌った。ゆったりした曲調がどことなくセレッソの応援歌「POWER
AND THE GLORY」を思わせ、妙に耳になじむ。特にサビの「Leverkusen, wir sind
die Macht am Rhein」のメロディーは覚えやすく、帰国後もレヴァークーゼンの試合を見るたび、自然と胸の中でリフレインしている。
“レーヴァクーゼン〜”の歌声とともにフラッグやマフラーが振られるなか、「BayArena
TV」に入場前の選手たちが映し出された。緊張した面持ちで整列する選手たちに混じって、バラックが笑っている。エスコートキッズと手をつなぎながら、その子どもとにこやかに談笑している。それを見たとき、ああ、この人は心からこの瞬間を楽しんでいるんだと感じた。
レヴァークーゼンの応援歌が続くなか、先に、ピッチ中央でチャンピオンズリーグマークをぱたぱたさせる役目の子どもたちが入場してきた。さっきは笑っていたバラックも、入場直前には真剣な表情になる。「ベテラン対決」ということだろうか。カメラはバラックとともに、バレンシアのアルベルダの顔もアップでとらえた。そして、かけ声とともに選手たちの列が動き出す。
⇒続く
|