チケットにあるブロック番号「D3」が書かれたゲートを探して、スタジアムの外をぐるっと回る。外壁には、クラブの歴史をつくってきた名選手たちの壁画ならぬ 「壁写真」が飾られていた。それらレジェンドたちに混じって、巨大なバラックの肖像があった。今から10年前、2001-2002シーズンのときの写 真だ。2007年のスタジアム改築の際にこの肖像が付けられたのだが、まさかその時は、またバラックがこのクラブに戻ってくるなんて思いもしなかっただろう。
 すでに引退した選手の写真が並ぶ中で、ただひとり現役選手が混じっていることに多少の違和感はあったが、クラブがそれだけ、バラックを誇りに思っているということだろう。彼がこのクラブを「終着地」に選んで、本当に良かったと改めて思った。

 目指す「D3」のゲートは、スタジアムをほとんど半周したところにあった。入口で、チケットのバーコードを機械に通 すがうまくいかず、もたもたしていると、後ろに並んでいた青年が代わりにチケットを機械に通 してくれた。旅行中、何度言ったか数え切れない「フィーレンダンク!」の言葉を返して、客席へ。暗い通 路を駆け上がると、目の前がぱあっと開いた。この瞬間がいつも一番好きだ。まだ誰もいないピッチの中央に、巨大なチャンピオンズリーグフラッグが鎮座して、主役の登場を待ち構えていた。

 初めて訪れるバイアレナ。だがお馴染みのBAYERやBay Arenaロゴは白い布ですっぽり隠されているので、「遂にバイアレナに来た!」という感覚はあまりない。それでも赤くペイントされた座席が、ここがレヴァークーゼンのホームであることをはっきりと主張している。とりわけ、ウルトラスが陣取るCブロック一体は、一足先に紅葉が訪れたように、赤一色に染まっていた。赤一色といっても、ゲーフラごとに微妙に赤の濃度が違うため、それがいっそう「紅葉っぽく」見えた。
 私の席は、ゴール真後ろのD3ブロック。この席を購入してくれたオカジさんが、先に席について、ビールとポテトフライを楽しんでいた。隣街のクラブ「ケルンFC」とは互いにいがみ合い、馬鹿にしあう仲のレヴァークーゼンだが、スタジアムで売っているビールはなぜかケルシュ。レヴァークーゼンにも、ケルンにおけるケルシュのような地ビールがあればなあ…と思いつつ、私もオカジさんに買ってきてもらったケルシュを飲んでいると、客席から突然歓声が上がった。選手たちがピッチに出てきたのだ。真っ先に現れたのは19歳の正ゴールキーパー、レノ。今、もっともファンから声援を浴びるにふさわしい選手の登場に、客席から自然とレノコールが起きる。こうして生で見ると、体つきも細いし、顔立ちもまだあどけない。これが数年後には、ドイツのゴールキーパーらしく、威圧感のある顔つきになったりするんだろうか。
 レノが練習を始めたのに続いて、フィールドプレイヤーたちもいっせいにピッチに走り出てきた。バラックもいる。遠くからでもすぐに「彼だ」と分かるその姿勢、その歩き方。初めてスタジアムで彼を見たときもそうだった。2002年W杯、カシマスタジアムで行われたドイツ対アイルランド戦。あれから9年の歳月が流れても、バラックはあのときと変わらず、まっすぐ胸を張って歩いている。「バラックの性格や生き方は、その姿勢に現れている。常に誇り高く、まっすぐだ」と書いたドイツの新聞の記事を、ふと、思いだした。

⇒続く