高まる批判と「90分」の壁
こんな小さな、のどかな街で、本当にチャンピオンズリーグが行われるんだなあ。そんな感慨は試合当日、どこからともなく集まってきた赤黒カラーの人たちを見てさらに強まった。10月19日。ホームスタジアムにFCバレンシアを迎えて戦う、グループリーグ第三戦。この試合に勝てばグループリーグ突破に大きく前進する。
試合開始は夜8時45分。試合前の練習が見たいから、遅くとも一時間前にはスタジアム入りしたいと思っていた。この日は朝からノイスのインゼル・ホンブロイヒ美術館に、午後からはデュッセルドルフのK20アートコレクションに行ってと、アート鑑賞三昧の一日だった。さらに夜にはチャンピオンズリーグ観戦と、なんて充実した一日だろう。これで試合にも勝ったら、文句なしに最高の日になるのだが。だがバラック個人には期待していても、試合の行方には自信がなかった。昨シーズンを2位
で終え、今季こそ優勝をと意気込んでいたレヴァークーゼンだが、ここまで勝ったり負けたり引き分けたりの繰り返しで、なかなか調子が上がらない。怪我人が相次いでいることも理由の一つだが、ドゥット監督の采配への批判も大きくなっていた。そのうちの一つが、好調のバラックを90分間使わないことだった。四日前のメンヒェングラードバッハ戦では、後半途中まで1対0とリードしながら、60分すぎにバラックを下げてロルフェスを投入。その後、立て続けに2点取られて逆転された。終了間際にシュールレがゴールを決めて、なんとか2対2の引き分けで終わったものの、攻守ともに中盤を支えていたバラック交代後の失点だけに、ファンは「なぜバラックを交代させた」とドゥット監督を非難した。これでバラックは今季まだ、一度も90分プレーさせてもらっていないことになる。調子が上がらなかったシーズン開始当初はともかく、調子を取り戻してからも、いつも試合終了を待たずに途中交代。監督と選手たちとの間がぎくしゃくしていることも、伝えられていた。メンヒェングラードバッハ戦で殊勲の同点ゴールを決めたシュールレは、ゴール後、一目散にベンチのバラックの元に走っていき、抱擁した。それは、監督への当てつけではないかとも言われていた。
そんな、なんとなく嫌なムードが漂うなかで行われる今日の一戦。夜7時過ぎ、ケルンからレヴァークーゼンに向かう列車の中には、赤と黒のマフラーを巻いたサポーターの姿もちらほらと見かけた。そのたびに私はいちいち「わ、本物のレヴァークーゼンサポーターだ」と心の中で歓声を上げていた。
レヴァークーゼン・ミッテ駅に降り立つと、歓声はさらに大きくなった。いつもはあんなにのどかなミッテ駅が、レヴァークーゼンサポーターたちに占拠されている! 赤と黒のマフラーやユニフォームを身につけて、楽しげにたむろしているのは、どこにでもいそうなおじさんやおばさんたち。この人たちもきっと、2001-2002シーズンのあの悔しさを味わいながら、それでもずっと応援し続けてきたんだろうな。私も日本で、あの悔しさを味わったんだよーなどと心の中で語りかけながら、彼らの後についていく。すでに辺りはすっかり暗く、初めてバイアレナ・スタジアムに行くには、サポーターの後についていくのが一番と思ったからだ。
だがついていった先は駅前の繁華街だった。どうやら彼らは、スタジアムに行く前に腹ごしらえするつもりらしい。慌てて回れ右して駅に戻り、別
のサポーターの後をついて行く私。どうやら近道を行くらしく、線路の高架下や、森の中の細い道を通
って行く。私の前後にも、サポーターが大勢歩いているので心強い。なんだ、「レヴァークーゼンは不人気」とか言われているけど、こんなに大勢のサポーターがいるじゃないか。最近のチームの出来からいって、今日の試合の行方には不安たっぷりだったが、こうして現地で一緒に応援できるだけで嬉しい。そんなはればれとした気持ちで歩いていると、暗がりの中から突然、ライトアップされたスタジアムが浮かび上がった。夜空に輝くBAYERのマークと、Bay
Arenaの文字。周りに建物がほとんどない森の中だからこそ、白く輝くスタジアムがよりいっそうまぶしく、非日常へ誘う夢の城のように映った。
⇒続く
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