後半が始まった。ライナルツに代わってフリードリッヒが登場すると、ゴール裏から歓声が起こる。みな、彼の登場を待っていたのだ。
 前半と違って、今度はレヴァークーゼンが私たちの方に攻めてくる番だ。だが前半と同じく、開始直後、攻め上がるのはバレンシア。「またか…」とため息が出そうになった、その時だった。バレンシア選手がゴール前に送ったパスを、フリードリッヒがカットしたのだ。彼は落ち着いて味方にパス。この一連のプレーで、レヴァークーゼンの選手たちも落ち着いたのではないだろうか。もう守備は大丈夫だ。さあ、点を取り返そう。
 前半とは見違えるようにレヴァークーゼン選手の動きがよくなり、こぼれ球を拾えるようになる。軽快にゴール前までボールをつなぎ、バラックが相手選手二人に囲まれながらも、オーバーラップしてきたカドレツに巧みなパス。これをカドレツがドンピシャのタイミングでシュールレへ。シュールレの左足が一閃し、次の瞬間、ボールはゴール左隅に吸い込まれた。同点! 後からビデオで見返すと、シュールレのすぐ前にいたバラックが、シュールレが放ったシュートをブロックしないようとっさに体を反らせていた。

 サポーターの大歓声が鳴り響くなか、レヴァークーゼンのチャンスは続く。ベンダー、サムが次々にシュートを放ち、私の周囲はずっと総立ち状態だ。
 不可解なファウルからバレンシアにボールが渡るが、フリードリッヒがゴール前でこれをカット。フリードリッヒからトプラク、トプラクからバラックへ。後ろ向きにボールを受けたバラックは振り返りざま、前方のサムにロングパス。これが守備陣を切り裂くキラーパスとなり、サムがボールとともに疾走する。ぐんぐんこちらに迫ってくるサムを、ゴール裏は絶叫で迎える。サポーターの思いは一つ、シュートだサム! その思いが届いたように、サムの左足から放たれたボールは美しい放物線を描いてゴールネットを揺らした。スーパーゴールで2対1と逆転! シュールレのゴールからわずか4分後のことだった。
 これがサッカーというものだろうか。あっという間の逆転劇に、ゴール裏は歓喜の雄叫びに包まれた。周囲の者と肩を抱き合って喜び合う。自軍ベンチ前で、選手たちも抱き合っている。その中心にいるのはもちろんサム。翌日、新聞を読んで知ったが、サムはゴール後一直線にベンチ前に走っていき、ドゥット監督と抱擁したのだ。他の選手たちも次々に駆け寄ってきて、サムと監督に抱きついて祝福する。
 アシストを決めたバラックもその祝福の輪に加わったが、喜び方は控えめだった。ドリンクを飲もうとするのを監督が抱きとめ、指示を出している。真剣な顔でうなずき、ボトルを放り捨ててピッチに戻っていくバラック。監督が彼を「リーダー」だと認め始めたことを、感じさせるワンシーンだった。
 それにしても、逆転ゴールの起点となったのはフリードリッヒのパスカットから。後半開始からの彼の出場が、この試合を大きく変えた。このところ批判続きだったドゥット監督の采配がずばり当たったのだ。
 サムがゴール後ドゥット監督と抱擁したのも、メディアから集中攻撃されていた監督を擁護するためだったと、翌日の新聞で知った。ぎくしゃくしていたチームが、試合中にガチッとひとつにまとまったのだ。
 きっと、それだけ前半の内容が選手たちにとって不甲斐なく(バラックは「これまで体験した中で最悪の内容」と語った)、効果 的な選手交代で劣勢を跳ね返した監督への賞賛と感謝の思いもあったのだろう。それまであまり感情を表に出さなかったドゥット監督が、サムのゴール後、喜びを爆発させた姿も印象的だった。監督が喜び勇んで駆け回る姿は、選手たちを高揚させる。

⇒続く