90分、サムがシュヴァーブと交代。これで交代枠を使い切ったことになり、バラックの今季初のフル出場が確定した。表示されたアディショナルタイムは3分。
いつしか私も、周囲の者も立ち上がっていた。リードはわずかに1点、とてもじゃないが安心できない。案の定、簡単にゴール前に攻め込まれるが、レノが落ち着いてシュートをキャッチ。「早く笛を吹け」というサポーターの口笛が鳴り響くなか、レノが放ったゴールキックが夜空に高く舞い上がる。そのボールを競り合っているとき、大歓声が沸いた。試合が終わった。勝ったのだ。
選手たちが輪になって喜んでいる。私も最高の気分だった。前半と後半でこんなにチームの出来が変わるなんて、こんな痛快な試合はそうそうない。後半から変わったことといえば、ライナルツに変わってフリードリッヒが入ったことのみ。だがそれがどれほど大きかったか。試合後、誰よりも喜びをあらわにしていたのもフリードリッヒだった。今季は若手のライナルツにポジションを奪われ、ここまでろくに出番がなかった。それだけに今夜、与えられたチャンスをモノにして、勝利に貢献できたことが嬉しかったのだろう。
何度もガッツポーズを繰り返すフリードリッヒとは対照的に、バラックはクールだった。今季初めて90分間、試合終了までプレーできた記念すべき試合。それだけでなく、バラックがこのチームのリーダーであることを、はっきり知らしめた試合でもあった。翌日、ドイツの各新聞は「Big
Ballack」「Ballack is back」「Boss ist zuruck(ボスが帰ってきた)」などの見出しでバラックを讃えた。前半あれだけガタガタだったレヴァークーゼンが勝てたのは、国際経験豊富なバラックがいたからだと書いた新聞もあった。一瞬で敵陣を切り裂くキラーパスはもちろん、苦しい場面
ではファウルをもらって、チームが落ち着く時間を稼いだ。それは単に経験豊富なだけではない、長年代表チームのキャプテンをつとめるなど、数々の国際舞台を「リーダーとして」闘ってきたバラックだからこそできたことだと思う。